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2024.3.18

BACK IN THE 1970s~「時代の喧騒を忘れる、茶垸(ちゃわん)のぬくもり」(大阪市立美術館)

精力的に創作活動を行った人間国宝 荒川豊蔵《志野茶垸(しのちゃわん)》

大阪市立美術館

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日本中が万博にわいた時代に、ひたむきに創作を続けたある人物

昭和を代表する陶芸家・荒川豊蔵が陶芸の道に進んだのは1920年代。桃山時代の志野焼に魅力を感じる一方、土の特徴から志野が瀬戸焼であるとの当時の定説に疑問を抱き、調査に着手します。そして1930(昭和5)年、美濃の窯跡で志野陶片を発見。志野が美濃焼であることを証明し、陶芸の歴史を塗り替えました。荒川はこれを機に志野の再現を志し、「荒川志野」と呼ばれる独自の作風を確立。1955(昭和30)年に人間国宝に認定されました。1971(昭和46)年には文化勲章も受章し、美濃のほか各地の窯でも作陶するなど精力的に創作活動を行いました。

大阪市立美術館が所蔵する本作は、桃山時代の志野焼を彷彿とさせる白い釉薬や緋色の模様に加え、ぽってりとした造形ややわらかな質感に荒川らしいあたたか味を感じることができます。お祭りムードの1970年代、決して派手ではないこの茶垸が、人々の心に穏やかなひとときをもたらしたのかもしれません。

▲写真は荒川豊蔵《志野茶垸》昭和期 大阪市立美術館所蔵(家田秋蔵氏寄贈)

広報誌『大阪ミュージアムズ』第28号より