SPECIAL INTERVIEW

スペシャルインタビュー Vol.2 佐藤友美子氏

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スペシャルインタビュー Vol.2

佐藤友美子氏

文化都市・大阪と ミュージアムの魅力、 これからの在り方とは 文化都市・大阪と ミュージアムの魅力、 これからの在り方とは

PROFILE

佐藤友美子/学校法人追手門学院 理事、大阪ガス株式会社 取締役、株式会社大阪国際会議場 取締役

1951年生まれ、三重県出身。立命館大学を卒業後、サントリー株式会社(現 サントリーホールディングス株式会社)に入社。1989年にサントリー不易流行研究所の設立メンバーとなり、以降約20年間調査研究に関わった後、サントリー文化財団に移った。退職後は、追手門学院大学地域創造学部教授、同大学成熟社会研究所所長などを歴任。生活文化の研究者として、多様なテーマ、様々なフィールドで調査研究、教育普及活動を続けている。

THEME

テーマ

長年にわたって生活文化の研究者として活躍し、現在は地方独立行政法人大阪市博物館機構の理事も務める佐藤氏にインタビュー。研究者の視点から紐解く文化都市・大阪の魅力にはじまり、佐藤氏にとってミュージアムはどのような存在なのか、私的な楽しみ方、今後のミュージアムに期待することなどを伺いました。

01

江戸時代から庶民の間で 多彩な文化が花開いた街・大阪。 多彩な文化が 花開いた街・大阪。

私は大学卒業後サントリーに入社し、創立90周年事業として創設された「サントリー不易流行研究所」の設立メンバーになったことから、研究者の道を歩み始めました。本研究所は「生活の中の楽しみ」をテーマとして、広く人々の生活、文化、都市について調査研究。その中で、大阪の印象もずいぶん変わりました。

当時、ある政治家が「大阪はタン壺」と言うなど、一般的に大阪の街はあまり良いイメージではありませんでした。私自身も大阪は京都に比べて文化の無い街という印象を持っていました。でも、実際は全く違って、特に幕末までの日本において、大阪は文化都市として大きく花開いた街だったのです。例えば、江戸時代には道頓堀に多くの芝居小屋が立ち並ぶようになり、明治時代まで長らく芝居街として大いに賑わった歴史があります。また、同じく江戸後半から明治期の船場には大阪の商人たちが設立した学問所の懐徳堂があり、多くの町人学者を輩出しました。他にもエピソードはたくさんあります。武士が多く、官僚的で格式の高いものが好まれがちな東京に比べると、大阪は庶民が楽しむ文化が豊かに育まれた街と言えるのです。当時、日本を訪れたイギリスの外交官は「江戸はロンドン、京都はローマ、大坂はパリである」といい、大阪を訪れたシーボルトも「この地はあらゆる種類の娯楽を集めている。大衆的な娯楽場は江戸の場合よりいちだんと輝かしい光彩を浴びている」という記録を残しています。身近な楽しみ、遊び、美しいものなどに対する興味関心の高さは、大阪の庶民が日本一だったのかもしれません。

それらを踏まえて今の大阪を見ると、庶民にとって文化的なものはちょっと遠い存在で、ハードルが高くなってしまった気がします。人も、物も東京に集中する中で、自信を無くしているのかもしれません。それに、東京的な感覚で、ハイスペックなものこそ文化的価値が高いといった評価基準になっているところもあると思います。立派なことは良いことだ、という価値観に拘らず、もっと自由に文化や娯楽を楽しむことを大阪ならできるのではないでしょうか。文化を身近なものとして生活の中に取り入れ、花開いた時代があったのですから、難しいことではないと思います。

02

知識を得るのではなく、 心震わす偶然の出会いを求めて。

私はプライベートでもよくミュージアムに足を運びます。知名度や規模など関係なく、国内外問わず旅先でも、その土地のミュージアムを訪れるのを楽しみにしています。ミュージアムに行くとなると、事前に展覧会の内容や展示物、作者などについて理解してから行かねば! と思っている方も多いかもしれませんが、私は全然。

前もって知識を入れると、それを確認しに行くような見方になるのが嫌なんです。空っぽな、無垢な状態で鑑賞したいので、何も調べずにふらりと訪れることが多いですね。全くもって教養主義的ではないですし、そこで知識を増やそうとも思っていなくて。楽しければええやん、良い時間が過ごせればええやんという考えです(笑)。

そういったスタイルで楽しんでいたら、先日も何となく入ってみた美術館の絵画展が素晴らしくて。作者の視点の定め方やものの見方がとても斬新で面白く、なんだかとても得した気分になりました。こんな風に、自分の発想とは全く違うものに出合えるのがミュージアムの楽しさ、面白さです。展示物を通して、「作者は何を表現したいのか」「世の中をこう見ているのか」といったことを知識や理屈ではなく、感覚的に分かるところ。単純に心地良いだけではなく刺激を受けられるので、ミュージアムが好きなんです。調べるのは、その後でも良いと思っています。

仕事で答えが出ずに迷うことがあると、行きたくなる博物館や美術館もあります。世界から集められた収蔵品や美しい芸術品を見ることで、エネルギーをもらったり、忘れていた何かに気づかされたり、自分を取り戻したりすることができます。友人の中には「推し」に会いに行くような感覚で、美術館に行く人もいます。

私は何かに触発されてすぐにその場でひらめくことはそうそう無くて、色々な経験を積み重ねていった上に、ふわっと新しいアイデアが降りてくるタイプ。そのために、日々自分の思考や生活とは異なるものに出合い、刺激を蓄積しておくことが大切だと思っているのです。だから、その先に何か心が震えるようなムーブメントが起きることを期待して、日常的にミュージアムを訪れているとも言えます。

03

ミュージアムから派生するものや、 その土地でしか感じ得ないことも魅力的。 ミュージアムから 派生するものや、 その土地でしか 感じ得ないことも魅力的。

ミュージアムの楽しみというと、ミュージアムショップの存在も大きいです。日本国内のミュージアムショップは美術展の記念グッズやお土産的なものが多く並びがちですが、海外では、ミュージアムの空気感に合うようなものや、日常生活でずっと使いたいと思うような素敵なアイテムがセレクションされて置かれていることがあります。日本のミュージアムショップもそういったものが増えていくと良いなと思っています。

また、海外のミュージアムには個性的で、洒落たカフェが併設されていることが多い点も魅力だと感じています。鑑賞後に、そこでお茶をしながら余韻に浸る時間も楽しみの一つです。展覧会はもちろん、ショップ、カフェと、ミュージアムを取り巻く空間全体を楽しむといった感覚を、もっと日本でも味わえるようになると良いですよね。

一方、私はミュージアムだけではなくて、日本各地で行われているビエンナーレやトリエンナーレなどの芸術祭も好きで、よく足を運んでいます。そこには、その地域の歴史や風景、人の暮らしに触発されたアーティストの作品があるのですが、多くの作品は住んでいる人たちの協力を得て制作されています。開催地の美しい自然に癒されることも多いのですが、作品をきっかけとして、人の繋がりや、過疎化、環境問題など、考えさせられることも多く、目が離せません。

04

コレクションを魅せていくこと、 地域に染み出していくことを課題に。 コレクションを、 魅せていくこと、 地域に染み出して いくことを課題に。

私が今後ミュージアムに期待していることに、もっとコレクション展に力を入れてほしいということがあります。海外のミュージアムはコレクション展が主流で、訪れる人は各ミュージアムの所蔵品を楽しみに足を運びます。一方で、日本国内の大きなミュージアムの大半は企画展が主流と言えます。

コレクション展は館の所蔵品を展示するので、日本では一般的に常設展と呼ばれ面白味を感じにくいのかもしれませんが、もっと魅力的に見せていくことはできるはず。現状はただ所蔵品を並べているだけで物語が無いと感じることも多いのですが、きちんとしたコンセプトを持って、ストーリー立てて展開していくと、全く別のものになりえるポテンシャルがあると思います。そういった工夫があると楽しくなって、コレクションだけでも十分に人を惹きつけることができるはずです。すると、安定的にいつ訪れても楽しめる場所となり、特別の展覧会でなくても、例えば友人知人が旅行がてら遊びに来た時も連れて行きたくなる、海外からの観光客の方も立ち寄ってみたくなる場所になるのではないでしょうか。

あとは、それぞれのミュージアムに価値や魅力があるのは分かりますが、やはりホワイトキューブの中だけではなく、もう少し外に染み出していくような、地域や市民と一体となる動きに期待したいと思います。大阪市博物館機構では、「都市のコア」になることをめざしていますが、中心であるというだけでなく、積極的に街との関係性を作っていく、もっと市民にオープンにして、場として使っていただいたり、ワークショップに参加していただくなど、様々に関わっていただくことも大切です。インターネット社会だからこそ、素晴らしい空間と所蔵品を持つという特徴を活かし、多様な人が集う「都市の広場」としての役割がこれからは求められると思います。

最初お話ししたように、大阪は文化へのポテンシャルがある街。ぜひ全国に先駆け、大阪のミュージアムが率先して地域に染み出し、本当に地域の人に愛され、誰にとっても生活の一部として親しまれるような存在になっていけると良いなと考えています。

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